季刊 市川モンダイ

『ワンスオンリー』、『フリーアドレス』
地方自治では聴き慣れない横文字連発の裏にあった
セキュリティー強化で執務室から
市議会議員閉め出し令の暴挙

8月25日、4階以上だけオープンした市川市役所新庁舎
 9月7日、市川市の財政部長、情報政策部長が連名で、市議会議員全員に「第一庁舎における執務室のセキュリティについて」との通知を出した。
 2枚組で、1枚目は左下の文章、2枚目はA3用紙に、全フロアのセキュリティーエリアを赤線で囲い示してある。
 2枚目を特によく見てほしい。なんと、議員控え室以外、全域が議員が入れない場所になっているのだ。
 これを見たある市議が声を荒げて言う。
 「昨年のテスラ公用車の一件でも、議会は導入反対決議を僅差で可決しました。この新庁舎でも元々計画になかった1階から2階への中央階段を昨年8月に突然、市長が追加で設置すると言い出した。そのため今年8月の開所を5ヶ月遅らせる、と言うので議会は昨年9月に慎重な判断を求める決議をしたが、強引に進めらた。(同年) 12月には『計画通りの開庁』を求める決議もしたのですが、実質的にそれを無視して続行され、先般(8月25日)の開庁に3階より下は間に合わなくなったのです」
 この中央階段の追加設置により、執務スペースは大幅に減少。約百人の職員が市役所本庁舎の外にスペースを借りなければならないという。工費は階段だけで1億5000万円。外部施設の賃料などランニングコストもかかるのだが、問題はそこよりも、議会との対立激化だろう。
 先の市議が続ける。
 「今年、2月の議会でいよいよ工事そのものにかかる予算を否決しよう、という声もあったんですが、そしたら、村越市長は記者団の質問に、解散をもチラつかせて、こう答えたんです。『市議は選挙で選ばれた人たちだが、私も選挙で選ばれた。否決されれば、私にも考えがある』とね。喧嘩を売ってるとしか聞こえないでしょ!。この締め出しも、これ以上、情報を議員たちに出したくない、という意趣返しにしか見えません」
 新庁舎ではセキュリティ強化のほか、市民が来庁した際、一箇所で全ての用を済ませられる「ワンスオンリー」と職員の席を固定化しない「フリーアドレス」が導入された。外出の多いスタッフのスペースを節約したり、プロジェクトごとに移動できるなどの利点からベンチャー企業などで導入が進んだが、最近は、コロナ対策で廃止する企業が多い。
 なぜ今?しかも、市役所となれば事情も違う。
 今度はある市役所関係者が言う。
 「一部での導入は以前から検討していました。ところが今回、一気に全面的なフリーアドレスにしてしまった。だから、総務、人事など、外部流出してはいけない大事な情報が、どこにあるかわからないので、全面的にセキュリティをかけた、というのです。でも、考えてみてください。総務とか経理とか、そこにいること自体に意味がある人までどうしてフリーアドレスにしなきゃいけないの?」
 確かに意味がわからない。多くの自治体でも、住民情報や人事情報など流出してはならない情報を管理している部署や、会計課などは、その部門にだけ扉と鍵がついている、という仕様は従前からよくある。セキュリティ強化も、そうした重要情報ばかりを集めた一角にだけ施せばよかったのでは?
 先の市役所関係者がこんなことを言った。
 「だからね、この中央階段が職員だけ通れる場所だったら、ここに住民情報を集めることもできたんですよね。本当に無駄な階段。これがなかったら、執務室全域から議員締め出し、なんて愚かなことにならなかったんじゃないかと思う」
 考えてみると、ワンスオンリーなのに、どうして、1 階から2 階まで、市民が階段を登って移動しなければならないのか。
 どこまでも無計画な階段なのである。
8月25日、4階以上だけオープンした市川市役所新庁舎